『薬屋のひとりごと』を追っていると、どこかで必ずぶつかる問いがあります。「猫猫は、いったい何者なのか」。薬学にだけは異常な情熱を注ぐこの少女の出自には、ひと筋縄ではいかない父娘の物語が隠れています。
ここでは猫猫の出自を、実父・羅漢との父娘関係を軸に整理し、母・鳳仙や養父・羅門との関わりまで、過去の謎を一緒にほどいていきます。事実の整理と、私なりの考察を分けて進めますね。
- 実の父は軍師・羅漢、実の母は花街の妓女・鳳仙
- 猫猫を育てたのは羅漢の叔父にあたる養父・羅門
- 猫猫は羅門を父と慕い、実父の羅漢を「あの男」と呼んで距離を置く
猫猫の出自とは?羅漢との父娘関係をまず整理
猫猫の出自は、実父・羅漢、実母・鳳仙、そして養父・羅門という三人の関係を押さえると一気に見通せます。血のつながりと、育ての縁が別々に存在するのが核心です。
ここを混同すると物語がぼやけてしまうので、最初にきれいに分けておきましょう。猫猫に血を分けた父は、変わり者の軍師として知られる羅漢。母は、花街の緑青館にいた妓女・鳳仙です。そして、生まれたあとの猫猫を引き取り、薬の知識と居場所を与えたのが、羅漢の叔父にあたる羅門でした。
つまり、猫猫には「血の父(羅漢)」と「育ての父(羅門)」が別々にいる——これが出自を読むうえでの大前提です。猫猫自身が長く「父」と呼んできたのは羅門のほうで、実父の羅漢に対しては、どこか頑なに距離を取り続けます。この三角形の構図を頭に入れておくと、後半の考察がぐっと立体的になります。

実の父・羅漢はどんな人物?
実父の羅漢は、軍部の太尉という重職に就く人物で、現代でいえば防衛大臣にあたる立場の重鎮です。同時に「変わり者の天才軍師」として知られる、強烈な個性の持ち主でもあります。
羅漢の最大の特徴は、人の顔を見分けられないという独特の認知のあり方です。誰を見ても判別がつかない世界に生きているのに、ただ一人だけ「顔が見えた」相手がいた——それが、のちに猫猫の母となる鳳仙でした。この設定を知ると、羅漢という人物の不器用さと一途さが、ぐっと輪郭を持って迫ってきます。
そんな羅漢ですが、猫猫に対しては「一人娘を溺愛する父」として描かれます。軍師として冷徹に立ち回る顔と、娘の前でだけ崩れる顔。その落差が、羅漢というキャラクターの愛おしさであり、同時に猫猫を戸惑わせる原因にもなっています。彼を単なる「変人」で片づけられないのは、この父としての一面があるからだと思います。
母・鳳仙と羅漢の出会いは?
猫猫の母・鳳仙は、花街の緑青館にいた妓女です。羅漢と鳳仙を結びつけたのは、意外にも盤上遊戯——囲碁でした。勝負を通じて心を通わせた二人の縁が、猫猫の誕生につながっていきます。
人の顔が見分けられない羅漢にとって、囲碁の盤を挟んで向き合った鳳仙は、はじめて「顔の見えた」特別な存在でした。二人は何度も盤を囲み、やがて深い関係になります。けれど、その縁はまっすぐには結ばれませんでした。身請けの話は破談となり、羅漢が都を長く離れているあいだに、鳳仙は重い病に侵されてしまいます。
すれ違いと喪失をはさんで、二人がふたたび向き合うのは、長い歳月を経たあとのことです。出会いの甘さと、その後にのしかかる過酷さ。この落差こそが、猫猫の出自に影を落とす「過去の謎」の正体だと言えます。母の人生をたどると、猫猫がなぜあれほど薬と毒に執着するのか、その遠い源泉にも触れられる気がします。
なぜ猫猫は羅漢を「あの男」と呼ぶ?
猫猫が実父の羅漢を「あの男」と呼んでよそよそしく接するのは、彼女にとっての「父」が、血のつながった羅漢ではなく、育ての親である羅門だからです。心の父は、最初からずっと羅門のほうにいます。
猫猫は花街で羅門に薬の手ほどきを受け、人として大事なものを教わって育ちました。だからこそ、ある日とつぜん「実の父」として現れた羅漢を、すんなり受け入れることができません。血のつながりはあっても、一緒に積み上げた時間がない——その距離感が、「あの男」という突き放した呼び方ににじんでいます。
ただ、ここで面白いのは、猫猫の態度が単純な憎しみではないことです。突き放しながらも、羅漢の不器用な愛情を完全には拒みきれていない。そのアンビバレントな揺れこそが、この父娘の関係を見ていて飽きさせないところです。憎みきれない、でも甘えきれない。その微妙な温度を、作品は丁寧にすくい取っています。
出自が物語に与える意味は?私の考察
ここからは私なりの考察です。確定した正解ではなく、これまで描かれてきた事実を手がかりにした読みとして受け取ってください。
猫猫の出自は、単なる「重い過去」では終わらない仕掛けになっていると感じます。羅漢の「顔が見分けられないのに鳳仙だけは見えた」という設定は、裏を返せば「本当に大切なものだけは見失わない」というテーマの変奏のようにも読み取れます。そしてその血を受け継いだ猫猫が、人の機微を観察し、毒と薬を見極めていく——出自と本人の資質が、静かに響き合っているのではないでしょうか。
また、血の父(羅漢)と育ての父(羅門)が別々にいる構図は、「家族とは血か、時間か」という普遍的な問いを物語に持ち込みます。猫猫がどちらを父と呼ぶかという選択は、彼女自身が「自分は何者か」を定義し直す行為でもある。出自を知ることは、猫猫にとって過去を背負うことであると同時に、自分の輪郭を確かめることなのだと、私は読んでいます。だからこそ、この父娘の物語は、回を追うごとに深く染みてくるのだと思います。
まとめ
猫猫の出自は、実父・羅漢、実母・鳳仙、養父・羅門という三人の縁が交差する、切なくも豊かな物語でした。血のつながりと育ての時間が別々に存在し、猫猫が羅漢を「あの男」と呼ぶ距離感にも、ちゃんと理由がある——そこを押さえると、二人の不器用な父娘関係がいっそう味わい深く見えてきます。
登場人物どうしのつながりをもっと広く見渡したい方は、『薬屋のひとりごと』相関図の徹底解説もあわせてどうぞ。壬氏や皇帝との関係まで一望できます。羅漢と鳳仙の物語をじっくり追いたい方は、原作のコミックやライトノベルで、その機微を確かめてみるのもおすすめです。
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